薄墨

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今年のクリスマスプレゼントは、筆記用具とノートだった。
最悪だ。
サンタへの手紙には、「新しいスパイクが欲しい。」って書いたのに。

真っ白なベッドの枕元に置かれた、小洒落た包みを開くと、中に入っていたのは、真っ新なノートと、4色ボールペンだった。

確かに僕は、初めて知ったことをノートにまとめて、自分だけの図鑑や辞書を作るのは好きだったけど。
今日だけは、別のプレゼントが欲しかったのに。

新しい足に合うスパイクが欲しかったのに。

いつもの看護師さんが笑顔をたたえてやってくる。
動画を回している。
手のひらほどの大きさのビデオを手に、「みんな、サンタさんにお礼で送りたいから、プレゼントを使ってるところを見せてね」
そう言っている。
お目当てのプレゼントをもらえた子達が大はしゃぎで、看護師さんにプレゼントを見せにいく。

使いたくなくてプレゼントをしまいこんだ時、看護師さんと目が合った。
看護師さんは、申し訳なさそうな、悲しそうな、心配そうな、いろんな複雑なものが混じった温かい目で、僕を見ている。

仕方なくノートを引っ張り出して、ボールペンを持つ。
4色のボールペンには、黒、赤、緑、青の芯があるようだ。
僕はボールペンを握って、それぞれの色で覚えたばかりの英語の綴りを書いてみた。

Red,Green,Blue

書きながら、悲しくなった。
本当は僕にだって分かっていた。
サンタさんが新しいスパイクをくれなかった理由も。
看護師さんがあんな顔をする理由も。

僕は、掛け布団をこっそりめくって、足を見た。
僕の足だったところを見た。

足は膝のところで丸まって、それ以上は伸びていない。
僕は僕の足と引き換えに生きている。

涙が出そうで、あわてて、足を隠した。
ノートを見る。

Red,Green,Blue

鮮やかな僕の字が、ぼんやりと潤んできた。

9/10/2025, 10:33:06 PM