いぐあな

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300字小説

立葵

 あれは梅雨の時期のこと。バイクで廃墟巡りをしていたとき、とある廃村を訪れた。廃棄された畑には梅雨の走りの立葵が花盛りで、その美しさに写真を撮っているうちに獣道のような細道に迷い込んだ。
 一本道なのに、戻っても戻っても村に辿り着けない。雲の向こうの日が傾いたのか辺りが暗くなり、冷たい風とともに何かが話す声が聞こえたとき
『出口はこっちよ』
 ひらひらの赤いスカートをはいた女の子が俺の手を取って歩き出した。
 やがて話し声が聞こえなくなり、雨が身体にあたる。とめていたバイクが見えたとき、安堵で膝が崩れそうになった。
『美しいって言ってくれてありがとう』
 振り向くと女の子の姿はなく、ただ立葵がしっとりと濡れていた。

お題「梅雨」

6/1/2024, 11:23:53 AM