あなた誰?
ある退屈な午後。冷たい雨が降り注ぐ中、私は喫茶店でコーヒーを飲んでいた。そして、時間を潰そうと持ってきた本を読もうとしたが、いざその本を開くと眠気が襲ってきた。
こくり、こくり、と船を漕ぎながら、3,40分くらい経っただろうか。ふと起きて、生ぬるいコーヒーを啜っていたときに横から、
「やあやあ、どうも遅れてしまって申し訳ございません!
来る途中に実は犬に追いかけられてしまいまして。
ええ、ええ、ポメラニアンってやつでしょうか?
そう、もふもふのやつ。ああ、参ってしまったらありゃし
ない!あんな可愛い顔してながら、意外と噛む力が強いん
だ。
なんて躾がなってないんだ、って思ってね。せめてその飼
い主の顔を見てやろうって思って、視線をあげて見てみた
んですよ。そしたらあなた、びっくりいま話題の…」
眼鏡をつけた気弱そうな大きく太った知らない男が申し訳なさそうに俯きながら、わたしは何も答えていないのに、あたかもわたしが「どんな犬だったの?」、「ああ、ポメラニアンね」と返事しているかのように、高めの声でマシンガンのように話し続けてる。
なんだか、続きが気になる話じゃないか。だけど生憎人違いだ。このまま喋らせてしまうのも申し訳ないから、
「ごめんなさい!人違いですよ」
といった。すると、そのおっちょこちょいな男はギョッと見開いた目でわたしの目を直視し、大きな声で、
「ヒャアア!すみません!」
って言って顔を真っ赤に染めて去っていった。
果たして彼は約束の相手にわたしに話してくれた同じテンションで話をできただろうか?犬の飼い主は誰だったのだろうか?そもそも、こんな寒い雨の中あの大男を襲ったポメラニアンってどんな子だろうか?
なんだか、退屈が紛れた気がして、2-3ページほどしか読み進めなかった本にしおりをさして、席を立った。
2/19/2025, 12:47:32 PM