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「はじめまして!私はこのホテルを経営しているベルマンで御座います!ご予約はされていますでしょうか?」
「えっと、…」
目を開けたら、知らない場所にいた。
知らないっていうか、見たことないホテル。
ホテルの中は古びていないけど、なんとなくそういう雰囲気があるところだった。
「予約をされていないのでしたら、おすすめのお部屋に案内いたしましょう」
このベルマンさんは、優しい。帽子を深くかぶっていて、顔が見えないけど。
「ありがとうございます、すみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ!ここに来る方は貴方のような方が沢山いらっしゃいます」
「…あの、自分記憶がなくて」
「承知致しました!証明書などは不要ですので、ご安心ください!では、こちらがお部屋のキーとなります」
「あ、ありがとうございます」
「朝食は朝6時半から、夕食は夜7時となります。昼食はご希望される方のみつけさせていただいておりますが、お客様はどうなさいますか?」
「えー、じゃあ、つけてください」
「承知致しました!メニュー一覧はこの用紙に記載されていますので、アレルギー等ご確認を。あ、あそこにアメニティグッズがございますので、ご自由にお使いください」
「、分かりました」
「あぁ、それと」
「はい?」
「必要のない外出は、抑えるようにお願い致します」
「…?分かりました」
「では!よい宿泊になりますように」
「いってらっしゃいませ!」

「ふぅ…」
案内された部屋は、綺麗で文句のつけどころがない部屋だった。theホテルって感じ。
軽くシャワーを済ませて、髪の毛をがしがしとタオルで撫でまわしながらさっき貰ったメニュー表をみる。
「へー」
嫌いなものはなさそう。アレルギーもないしなあ。
「え、そういえばここ何泊すんの?聞いてこなかったけど」
困惑の声だけが部屋に響いた。

「…ん」
めっちゃ眩しい。昨日は来たのが夜だったから、カーテンを閉めるのをすっかり忘れてそのまま寝てしまった。
「今何時〜…」
近くにコードに繋がれているスマホをみると、その画面は[6時20分]をさしていた。
「えっ!?もう朝食来るやん!」
急いで持ち前の寝相で乱れているナイトウェアを直して、冷たい水を顔に浴びせるために洗面台に駆け足で駆け込んだ。
「…お休みのところ申し訳ありません、朝食をお持ち致しました!」
聞いたことがある声だ。はっきりしていて、少し高めの声。
昨日対応してくれたベルマンさんだということが分かる。
そこらへんのタオルで顔面を拭いて出た。
「すみませんっ!ありがとうございます」
「いえ、これが仕事ですから。…お客様、失礼なことをお聞きしますが、寝起きですか?」
何故、バレている?
「え、そうなんですよ…よく分かりましたね」
「いえ、いつものところが跳ねて」
「?いつもの?」
「っ!なんでもありません、失礼しました。ただ、後ろの髪の毛が少し跳ねていたので」
「うえ!恥ずかしっ!!」
「…ふふ。大丈夫です、きちんと休むことができた証拠ですから」
「…はは、ありがとうございます!」
「こちら、朝食です。何かありましたら、カウンターまでお電話を」
「はい!」
「では、失礼します」

「朝飯朝飯〜」
テーブルの上に朝食を置いて、部屋に常備されているコーヒーをいれる。こういうときはブラックなんだよな
今日のメニューは、トーストとコーンスープ、サラダにスクランブルエッグとベーコンチーズ、うさぎ型に切られたりんご。
なんとも豪華である。普通にうまそう。
「腹減ったー…早く食べよ」
コーヒーをおいて、トーストについている林檎ジャムをぬって口にいれる。
「え、うまっ!」
林檎ジャムが想像以上にうまい。
市販のものなんかじゃなくて、きちんと工夫して作られているんだなってわかる。甘すぎなくて、食べやすいさっぱりしたジャム。
「んー、いいなあ」
腹が減っていた自分は、すごいスピードで口に放り込んでいく。こんな洒落ついているホテルですることじゃないだろうが、俺は今一人なんだから別にいいだろう。
「あー、うまかった」
最後に残したのはこのウサギのリンゴ
…あれ?このりんご、うさぎの形どっかで見たような、?
まあ、気のせいか。
テキトーに放り込んで、皿が乗っているトレイごと外の置き場において部屋に戻った。



4/2/2025, 6:52:28 AM