寂しさ

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僕たちはいつも3人だった。
しっかり者の桜とおっとりした菜花、そしてこれと言ってなんの特徴もない僕。
桜と菜花は双子で、その間に僕がいたものだからよくからかわれたなと今になって思う。

小学生の時はいつも一緒に帰っていた。調子に乗ってふざける僕に、桜が叱る。その横で、ふふっと花が咲いたように笑う菜花。

中学に入ってからは男女の距離感が掴めなくなって3人で帰る事は減り、僕と菜花で帰ることが多くなった。菜花は花が大好きで帰りにはよくその話をしてくれた。僕はとても楽しそうに話す菜花の左顔に惹かれていた。彼女はそれを知っていたのだろうか。

僕たち3人は同じ高校に進学した。
桜は生徒会に、菜花は華道部に入ったようだった。
僕は帰宅部と決め込んでいたのだが、桜に「やる事ないなら私と生徒会でもどう?」と強引に誘われ、見事生徒会書記になってしまった。
当然3人の下校時間は合うはずもなく、3人一緒という時間はほぼなくなってしまった。
菜花は部活で忙しく、中学の頃とは逆に桜と帰ることが多くなった。
僕の趣味や今日の出来事を話すと、優しい笑顔で相槌を打つ右顔に惹かれていた。彼女はそれを知っていたのだろうか。

そんなある日、僕は菜花に空き教室へ呼び出された。
生徒会の仕事はなかったので菜花の部活が終わるまで待っていたら窓からはとても綺麗な夕日が見られた。
「ごめんね、遅くなっちゃって。」
とドアを開けながら菜花は言う。
「いいよ、全然。コンクール近いんだろ?」
と僕は言う。
菜花は窓側の自分の席に座って荷物を置くと、僕に向き合った。そして大きく深呼吸をすると
「こんないきなりでごめんなさい。小学生の頃から大好きでした。わたしと付き合ってください。」
僕は頭の中が一瞬真っ白になった。何も考えられなかった。とても混乱している。
僕が返事に困っているのを見て、菜花は返事はいつしてくれてもいいよ。と言ってくれた。
再び彼女の方を向くと、彼女の表情は逆光で全く見ることができなかった。

翌日、生徒会の仕事をしながら昨日の事を考えているといつのまにか最終下校時刻になっていた。
のっそり歩いていたら桜に置いていかれそうになったので急いで靴を履いて昇降口を出た。
そうだ。いっそのこと菜花のことを桜に相談してみようか。彼女はいつもこういう時に的確なアドバイスをくれる。彼女のアドバイスで失敗したことはないのだ。
と思い、桜に話そうとした瞬間だった。
「あんたさ、好きな人いるの?」
ぎくりとした。あの桜が急にそんなこと言うものだから。もしかして昨日の事をすでに菜花から聞いたのだろうか。
いやいないけど。と返すと、少し安心したような声色でそっかとつぶやいた。
「驚かないで聞いて欲しい。私あんたのことが好き。返事はいつでもいいから。私、待ってるから。」
彼女はそう言うと、じゃ、と言って走って帰っていってしまった。
夕日の逆光で彼女の顔は見れなかった。

僕はどうすればいいのかわからなかった。
楽しそうに話す菜花の左側も、優しい顔で相槌を打つ桜の右顔もどちらも好きだったからだ。
こんな事最低だなと思っても答えなんていくら待っても出なかった。
情け無いことに、僕はこのあと熱を出して1週間学校を休むことになってしまった。

そんな時に事件は起きた。
菜花が下校中に何者かに刺されて亡くなってしまったと言うのだ。
僕は信じられなかった。あの菜花が。楽しそうに花の話をして明るくておっとりしていたあの菜花が。
どうしてもっと一緒にいてあげられなかったのだろう。どうしてもっと一緒に帰らなかったのだろう。
後悔しても遅い事はわかっていた。
後悔してもあの花のような笑顔が戻る事はない事はわかっていた。

菜花の葬式が終わった。
桜の目は腫れ上がって真っ赤だった。僕も人のことは言えないが。
桜は僕を気遣って、外に散歩でもしに行こうかと誘ってくれた。その日も綺麗な夕日が出ていて眩しいくらいだった。
「あんたさ、菜花に告白されてたんだって?」
桜はぽつりと呟く。どうして彼女がそのことを知っていたのだろう。
すると僕の心を読んだかのように、桜は
「......菜花の日記に書いてあったんだよ。あんた、なんで返事してあげなかったの?あんたにokされてたら、菜花はきっと、きっと...幸せのままいなくなれたのに。」
桜は僕にしがみつく。あのしっかりもので強気な桜が僕の胸でわんわん泣いている。僕は咄嗟に、
「桜が、好きだったからだ。」と口走った。
最低な人間だ。僕は自分をそう評価した。
桜は目を丸くして僕を見上げる。なぜだろう。夕日に照らされた彼女はいつもより何倍も可愛く見える。
彼女の顔がみるみる赤くなり、僕から少しだけ離れた。
そのあと花のように笑って
「わたしも、大好き」と答えた。
僕は桜を抱きしめたくなったが、彼女は少し先を歩き始めた。逆光が眩しい。

僕はひとつの違和感に気づいた。
彼女は、桜は、花のように笑わない。いつも優しい相槌を打ってくれた桜ではないように感じた。
心にヒヤリとしたものを感じながら、前を歩く彼女にこう尋ねた。
「.............お前、誰だ?」
前を歩く彼女はこちらを振り返る。
「さあ?」
彼女の表情は逆光で見ることができなかった。



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お題 たそがれ


10/1/2023, 6:54:50 PM