黄昏に覆われていた空が、雲が晴れるように徐々に青色に変わっていく。
その様子を見ていたルヴィリアは、災厄の元凶を斃すのだと旅立ったニェナが、ついにその目的を果たしたのだと悟った。
それは別にルヴィリアだけでない。まるで世紀末のような様相を呈す空模様に怯えていた人々も一緒だった。空の色が元に戻ったことで、誰が何をしたのかはわからずとも、この災厄の終結を理解した。
各地の人々は歓喜に湧き、ソーンバルケの街の人々も同様だった。
喜びを伝えに領主の館へと来る者たちを温かく迎え入れながらも、ルヴィリアは今後のことについて算段していた。せざるを得なかったというのが正しい。
此度の災厄も、この終わらぬ黄昏の空も、まるで生まれたときから既にあり、幾星霜もこのままだったような気がする。しかし、災厄が始まったのは三年前、空を黄昏が覆い始めたのだってまだ三か月しか経っていない。
そんな長いとも言えない期間の出来事だったのに、ソーンバルケを含めたあちこちの国が壊滅的な状況にある。堅固な防壁に囲まれた領主直轄の街であったから、ソーンバルケはまだましな方であったが、領地のあちこちにある村落は魔物の襲撃などで被害を受けてしまった。
「――ニェナさんがとうとうやり遂げられたんですね」
ルヴィリアの傍らでアベラルドが口を開いた。彼はルヴィリアと同じように空を仰いでいた。
「ああ。そのようだ」
頷いたものの、ルヴィリアは溜息をついた。
先の内乱で命を落とした父親の跡を継いで、領主となったルヴィリアにはやるべきことが山積みだった。この街の、己が領地の復興が、自分に務まるのだろうか。不安は尽きない。
彼女の溜息に気づいたアベラルドは、ルヴィリアの方を見やった。
「どうかされましたか?」
いや、と彼女は首を横に振った。
「これからが始まりなのだと思ってな」
瞳を閉じれば、今でも美しかった街の姿を思い出せる。歩みは遅くとも、いつかその姿を取り戻してみせる。
1/25/2025, 6:27:51 PM