二人だけの秘密
『絶対に内緒だよ。』
『もちろん。そっちこそだよ。』
『ゆびきりげんまん』
夕暮れが当たりをオレンジ色に染める頃、幼い子供のありきたりな口約束を視界の片隅に映した女はちいさく微笑んで目を伏せた。
『嘘ついたらハリセンボンのます』
勢いよく上下に振られる結ばれた小指同士に合わせて肩迄伸びた赤毛が揺れる。
ヒヨコの尾のように揺れる髪に懐かしい赤を思い出した。
『必ず帰って来るよ』
優しく、何処か寂しげな瞳は力強い肯定とは違う未来を見据えていたのだろう。
首を傾げると鮮やかな夕焼け色の赤毛が揺れて、
そこから先は何も言えずに小指を握りしめた。
何処かで知っていた。
認める事ができなかった。
認めてしまえば終わってしまうものに
縋りついていたかった。
あの時指切りくらいはしておけばよかった。
そうすれば小指と小指の間に繋がる糸が
わずかな未来を手繰り寄せてくれたかもしれないのに。
『指切った!また明日ね!』
元気よく手を振って東と西に分かれていく。
そんな子供たちを見送りながらも立ち尽くす。
沈んでいく夕日に向かって思わず手を伸ばすと水平線のその先にある境界に沿って小指からオレンジの糸が続くように見えた。
赤にも満たないその運命の糸を恋しく思う。
貴方が好きだと気づいた時に、素直になれたら違う未来があったのだろうか。
長く伸びた影が夜の海にしずむまで
女は静かに空を見上げ続けた。
5/3/2026, 2:06:24 PM