1000年先も
記憶をたどると、おそらく幼稚園児ぐらいの時だったと思う。
居間の壁に、鳩時計が掛けられた。祖父の兄弟からの贈り物だったはず。
1時に1回、2時に2回、12時には12回、扉から飛び出して鳴く。13時はまた1回に戻る。半時間にも一回鳴く。
ただ音が鳴るだけではなく、体を大きく上下に揺らし、しっかり口を開いて鳴くのだ。その仕草が愛らしくて、椅子に登って指で針を戻して、何度も鳴かせたのを覚えている。
時間が経てば、流石に馴れた。成長するにつれて、鳴いている姿をあえて目で追うこともなくなった。が、素朴で温かみのあるあの鳴き声が耳に届くと、ほっとしている自分がいることに時折気付く。
我が家の鳩は電池式だ。鳴き声がゆっくりになると、交換の合図。新しいのに換えると、びっくりするくらい速く鳴く。そのたびに、もっと早く換えればと思う。
いつまで鳴いてくれるだろうか。僕が換えるうちは僕が換えよう。そのあとは。
永久乾電池はいつできるのだろう。もし無理なら、太陽光電池に改造しようか。それなら1000年先も鳴けるだろう。
そうしたら思いきって、裏の森の一番立派な杉の木に掛けようかな。あの優しい声が森のみんなに届く。きっと本物の鳩も集まってくる。ひとりで鳴かずに済むだろう。
2/3/2024, 11:31:27 PM