薄墨

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突然だが、君に知らせたいことがある。

改装工事が決まった。
君と歩いたあの道の。

土地開発というやつがこの地域にやってきたのは、三年前のことだった。
うちの自治体は浅慮にも、世の移住ブーム、田舎スローライフブーム、離島ブームに乗っかって、この地域の活性化をしようと決めたのだ。

そんなわけで、土地開発というやつはやってきた。

泥だらけで凸凹だらけだった車道にはコンクリートが敷き詰められて、息をしたくなくなるほど堆肥の香りが充満していた土地にはアスファルトの蓋が張られて、その後に新たなショッピングモールやチェーン店に姿を変えた。

カエル爆竹やザリガニ釣り御用達のおっきめの小川の淵には、鋼性の柵が張り巡らされ、倒れた予備の電柱だの、使いきれなかった建材だのが積み重なっていた空き地は、いつの間にか、これから来る新入りたちのための集合住宅になった。

私たちが小さい頃にはしゃいでいた汚らしい危ない遊び場は、アスファルトと白いピカピカの塗料に溢れた、清潔で安心安全な生活必需所になった。

そして、道だ。
いつも君と歩いた道。
あの道も、とうとう、乾いたアスファルトでカチカチに固めた、あのどこにでもあるような四角行儀な道になるらしい。

君と私が足を取られて転んだり、嵐が来た日には陥没して、沼みたいになったりしていたあの役立たず道が、変わる。

薮の中から、蛇の逆三角形の頭が出てきて踏んづけたり、滅多に通らない車が通った後にはボコベコになっていたりしたあの道は、もうなくなってしまう。

大雨と大風で道としての役割を果たせなくなるポンコツから生まれ変わる。
らしい。

正直、今の気持ちをなんと言っていいか、私は整理できかねている。
ただ、そんな事実を君に共有したかった。

私よりずっと賢明で、言葉をよく知っていて、この地に収まるような器でなかった君なら、私の気持ちを表してくれそうな気がして。

だから、久しぶりに手紙なんて出してみた。
君と歩いた道の、かつての写真と共に。

自分勝手な迷惑な手紙だと、重々承知している。
だが、君の心を少しでも、動かせたなら嬉しい。

では、また。
今度、帰ってきた時は、またゆっくり飲もう。
最近はこちらにも、夕飯に良い店が増えてきたんだ。
君と行ける日を楽しみにしている。

6/8/2025, 2:51:07 PM