にや

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工場地帯の端、山と防波堤の間に走る道にぽつぽつと置かれた外灯が逆に薄気味悪さを演出している。

工場と道路の間にある、工業排水を流す為の凹んだ
区域は、排水処理設備の陰になっているせいか、車のライトがなければ真っ暗闇になるだろう。

ここ数日に起きた連続不審水死体事件の手がかりを掴むべく、検視官の鳶田と鑑識官の守山は、この場所に訪れた。

SNSを騒がせている『海神様』それが今回の事件の手がかりなのだが…

「ここが海神様に願いを出せるって噂になってる海。でもまあ、本当はこっち。」

探偵の目黒が山の方へ足を向けた。噂の海神様について我々をこの場所に連れてきた探偵が向かったのは、擁壁が途切れて簡単なアルミ柵を張った先の山道だった。

アルミ柵をすり抜け、人が踏みしめただけであろう山道を進むと、ぽっかりと拓けた場所に出た。

そこには、苔むした小さな小さな石祠。柱には簡素だが細工がされており、小さいとはいえ整えればきちんとした祠になりそうな代物だった。祠の中は空で、しめ縄もないが、荒れ果てた風でないのは“参拝者”がいるからだろうか。

祠のかかる石台の下には、水溜まりがあり、海水が流れ込んでいるようだった。

その水溜まりに、夥しいほどの木片が詰め込まれていた。どの板も赤黒く変色し、鉄さびの匂いに満ちている。


「海神様のおわす汀に打ち上げられた木の板に、己の血で願いを書いて黄昏時の祠に捧げる。それが海神様への正しい呪いの願い方。」

張こめた空気をゆったりと割くように目黒が呟いた。肺にこもっていた空気をぶはっと吐き出す。知らないうちに、息を詰めていたようだった。

「どうしても…届けたい想いがあったんだろうな…」

鳶田は喉を詰まらせながら、なんとかそれだけ絞り出した。

つい、祠を前に手を合わそうとした守山を目黒が止める。

「やめといた方がいい。何に祈りが届くかわからないから。」

空っぽの祠には、ナニが住んでるかわからないんだから…

「狂おしい程の想いは、届いちゃいけないところに届くこともあるんだ。」

1/31/2024, 2:32:13 AM