佐々宝砂

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澄んだ瞳

これほど澄んだ瞳を私は見たことがなかった。うっすらとあがる口角。こちらをまっすぐに見つめる瞳。その瞳には悩みも迷いもなく、ただ無心にこちらを見つめるように思われた。しかし医師は悲しげに彼を見やった。

「これは1000ヤードまたは2000ヤードの凝視と呼ばれるものです。彼らの瞳は澄んでるんじゃありません、拒否しているのです」
「ふーん。彼に身寄りはある?」
「ありません」
「じゃあうちで引き取るわ。彼に関して気をつけることがあれば教えてちょうだい」
「戦争に関するニュースや映像は見せないほうがいいですね。それから…」

説明を聞いてから、私は彼を家に連れ帰った。これから毎日彼の世話をして、毎日戦争の映像を見せてあげよう。あの瞳を維持するために。



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作者より。意味がわからない人は「1000ヤードの凝視」で検索してみてください。

7/30/2024, 11:19:06 AM