ストック1

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「すまない、僕が悪かった
もうこんなバカな真似はしないよ
だから、君が隠した鍵を出してくれ
車を出せないと君との約束を果たせない」

うっかりダブルブッキングした上、あろうことか私との予定を切ろうとした彼がようやく折れた
最初からそうしていれば、こんなことにはならなかったのに
まあでも、予定通り一緒に遠出するのだから、水に流してやろう
これから出発するのに険悪なままではいたくないからね
さあ、彼と楽しく出かけるぞ!
と、言いたいところだけど
実のところ、私は相当に焦っていた
なぜかって?
車の鍵をどこへ隠したか、怒りに任せた行動だったために全く記憶にないから
素直にそう言えばいいのだけど、なんとなく、この流れでそれを告げるのは……気まずい
なので、私は記憶を掘り起こすための時間稼ぎをする

「本当に、二度とこんなことしないでよ?」

「もちろん!
自分でもどうかしてたと思うよ」

「じゃあ、どんな感じで動物園を回るか相談しよう」

「え?
今から?」

あ、ヤバい
不審がられた

「あの、特に決めずにって話じゃなかったっけ?
というか、今まさに出かけるのでは?」

「え、えーと
時間が過ぎちゃったから、効率的に回りたいなって」

「な、なるほど?
それじゃあちょっと公式サイトを調べようか」

なんとか話を繋げられた
頭をフル回転させろ私!
鍵はどこだ!?

「たしか、前にキリンの首が長い奇妙さがとても好きだって言ってたよね?
そこを押さえるのなら、こういうルートがいいと思う」

「そ、そうだね
キリンは見たいし、このルートなら短い時間で充実しそう」

思い出せねー!
なんか怒りに任せてどこかに投げた気もするし、普通にわかりづらいところに隠した気もする
どっちにしろ怒りで興奮しすぎて記憶がおぼろげ!

「じゃあ、それで行こうか
そろそろ鍵を出してくれるかい?」

「ええと……」

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
早くもごまかすネタが尽きた!
そもそもこれ以上時間かけるのはあまりにも不自然!
どうすればいいの!?

「あの、もしかして、鍵失くした?」

ゲェッ!

「い、いや、あるよ!?
あるある!」

「……失くしたんだね……」

彼の言葉は質問ではなく断定だった
バレバレじゃん

「ごめん……」

「別にいいよ
もとはと言えば僕が原因だから
それに、だいたいどこにあるか、検討はつくし」

え?
最初から隠し場所バレてたの?
本人ですら覚えてないのに?
本当かな?

「ここじゃないかな」

彼は私がホワイトデーに彼から貰ったチョコレートの缶を開けた
ある
鍵がある

「大事なものを一時的に置いておく時ってたいていここだよね
習慣付きすぎて自然な流れで入れたから、覚えてなかったのかもね」

よ、よかった
あった
それにしてもこの人は私のそういう細かいところとか、よくわかってるなぁ
なんか、水に流すと言いつつちょっと残ってた怒りとかも、今度こそ流れた気がする

「それじゃあ、本当に、今度こそ行こう」

「うん、一緒に思いっきり楽しむもう!」

「そうだね」

こうして、無事に私たちは出発できたのだった
……隠すにしても、もう少し冷静になってやるべきだったよね

11/24/2025, 11:15:17 AM