ことり、

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遠い遠い南の島。
その小さな島の土手っ腹には、ちょうど
太陽がすっぽりはまるくらいの穴が
貫通していた。
夏至の日の夕方、対岸から見ると
ちょうどその穴に太陽がはまってから
沈む。

その時、太陽の「声」が聞こえるという。
人により内容は様々。
今年は初めて夏至に間に合った。
声は聞こえるのか。

あっ沈み始めた!
耳を澄ます。

…。
…。

何も聞こえない。それとも、聞こえないこと
自体が「それ」なのか?

…きて。
…起きて!
ケンタ、起きて!

その瞬間、ゴボオッと深海から
引き上げられるような感覚があった。
俺は半日ぶりに息を吹き返したらしい。
海に遊びに行って、波にさらわれたボールを追いかけて。
半日?
俺は「あの世界」で、夏至の南の島に
何年も挑戦したのだが。

異世界転生ものってやつか。

でもできれば、目が覚める時の「声」は、
看護師さん跳ね除けて、
俺にビンタしかねない勢いの
(弟から聞いた)
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの母ちゃんより、
綺麗で可愛い、最愛の彼女がよかったな…

いないけど。

8/7/2023, 7:19:01 AM