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「へぇっっっくしょぅぅううううい!!!!!!!」
獣の咆哮とさえ思う程のくしゃみは部屋中に響き渡り、それどころか少しばかり壁を振動させた。
「昨夜の散歩が効いたか。寒かったからな」
俺は掛け終わった掃除機を片付けながらベッドに向かい声を掛ける。
「いや、最近結構残業してたから…ぶええっくしょうううい!!!…そのせいじゃねえかなあ」
東城翔(とうじょう かける)はそう言うとずず、と鼻を啜った。
今朝俺が起きた時には既にこのような状態になっていた。
正直、このような野生児でも風邪を引くのかと少しばかり、いや相当驚いたものだ。だが普段どおり気丈に振る舞う傍ら、時折だるそうな表情を浮かべている辺りやはり辛いのであろう。
(昨日、俺がイルミネーションを見たいと言ってしまったからだな)
原因の一因は己のせいであると思うと心が痛んだ。
(―――そうだ)
俺はふと思い立ち翔のほうへと近づく。
「お?何だよいきなり」
翔はベッドから半身を少し起こしこちらを見た。
「あー…そ、その、だな」
俺は目を逸らし少し吃った後、翔の目を見、口を開く。
「…今日は好きなだけ俺に甘えて良い」
「―――??」
翔は驚きの表情を浮かべこちらを凝視している。
俺は途端に恥ずかしくなり顔を背け、そのまま言葉を続けた。
「翔が風邪を引いたのは昨日散歩に付き合わせた俺の責任でもある。だから今日は何でも言うといい。俺が出来る事であれば、何でもしてあげるよ」
「………何でも、か?」
「ああ、勿論俺が出来る範囲ではあるが―――ッ!??」
そう言いかけた時、突如腕をぐい、と引っ張られ俺はベッドへ転がり込んだ。
目の前には服越しにも分かる厚い胸板。俺はそのまま目線を上に移した。
煤竹色の瞳が、俺をじっと見下ろしている。
「―――おい、七星(ななせ)」
そう口を開きながら翔はぐっと顔を近付けた。
「他の奴にはぜってえそれ言うなよ。お前からその言葉を聞けるのは、俺だけだ」
目を少し細めこちらを見つめる翔は、風邪のせいなのか少し熱っぽい。
俺は自分でも驚く程のか細い声でああ、と答えると、煩い心臓の鼓動を抑えるようにぎゅっと目を閉じた。
「―――七星」
手首を握られたまま、もう片方の手が頬から顎をなぞる。
閉じた瞼越しに、翔の息遣いが近付くのを感じた―――。
「………っ!ぶええええっくしょおおおいいい!!!」
鼓膜が破れるかのようなくしゃみの咆哮。
俺は目を開け起き上がると、サイドテーブルに置いてあったティッシュの箱を掴み、目の前の男めがけて思い切り投げつけた。
12/16/2024, 12:08:25 PM