彼女は足元に転がっていた小石を拾った。小石をじっと見つめる。まるで石の中に目があり、視線を交わしているようだった。そして、その小石を両手のひらに包み込んで、顔に近づける。彼女は瞳を閉じて、真っ直ぐに立って祈った。
ガス臭う夜風が急に強く吹いて、彼女の身体をぐらぐらと揺らそうとする。けれども、彼女は動じない。手のひらの石の重みに委ねているのか、先ほどから固まったままだ。
今触れたら、夜の静けさを吸い込んだ石のように冷たいだろうか。それとも、昼間の蝉の声が染み込んで温かいだろうか。
彼女の身体は全く動かないが、腕の産毛がふわふわと風に乗って揺れている。小麦色に焼けたうなじは汗ばんで、星のように煌めいている。白く輝く汗は一筋の光を残して、さらりと背中に流れていった。
遠くから、車の滑るような音が響いて、さっと消えていく。暗い周囲の草木から息づかいするような気配を感じる。ようやく、彼女が顔を上げた。更に夜空を見上げて、首を伸ばす。
手のひらを開けて、小石に口付けをした。長い口付けだった。小石はすっかりと彼女の温もりに満たされている。その温かさに、彼女と小石が混じり合って一つになったような錯覚を彼女自身覚えた。
手放すのが惜しいと思ったその時、彼女は白く霞む星空に向かって小石を放り投げた。空気を切る音がするも、その後地面に落ちた音が響かなかった。
どこに落ちたのかと、彼女の祈りをずっと見ていた友人が辺りを見回す。しかし、汚れた街灯の下では見つけられなかった。
「本当に星になったの?」
友人の問いに、彼女は微笑んだ。そうだったら良いねと電気の光よりも強く輝く一番星を見上げた。
(250707 願い事)
7/7/2025, 12:16:51 PM