せつか

Open App

灰色が好きとあの子は言った。
黒でも白でもない、曖昧な色がいいと。
極端なのは苦手なの、とも言った。
夏や冬より秋が好きで、昼や夜より夕方が好きな子だった。きらびやかな都会の駅ビルより、少し田舎の街のショッピングモールが好きで、映画化されたベストセラー小説よりその横の棚に一冊だけある本が好きな子だった。

今、あの子の部屋には誰もいない。
曖昧なのが好きなあの子の部屋は、嘘みたいに綺麗に整えられている。
服はここ、アクセサリーはここ、本棚はここ。
日用品はこの引き出しで、筆記用具はこの箱の中。
混ざった物など一つも無い。
「·····どっちが本当のキミだったの?」
あの子が好きだと言った本を取り出しながら、ぽつりと呟く。

吊り下げられた服は抑えた色味のものもあれば、ビビットカラーのものもあった。私と会う時はいつも抑えた色味だったが、別の一面もあったのだろう。
私に見せていたのは光か闇か、どちらだったのだろう?

――いや、どちらでもあり、どちらでもないのか。
光と闇、その境もはっきりとある訳じゃない。
あの子はその狭間で生を謳歌した。それだけの事だ。
パラパラと捲っていた本の中から、紙が一枚はらりと落ちた。

『センセ、ありがと!』

END


「光と闇の狭間で」

12/2/2024, 2:35:18 PM