光合成

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『君と見た虹』

君と出会ったあの日は雨が降っていた。
この時期には珍しい土砂降りで、駅からの帰り道を小走りに急いでいた夜だった。
家の近くにある小学校の角を曲がったところに君は体を小さく丸めて震えていた。
その姿がなんとも可哀想で、手を差し伸べた。

暖かいお風呂に入れさせてご飯をあげる。お腹がずいぶん空いていたみたいでいい食べっぷりだった。
「君、お母さんやお父さんは?」
尋ねても首を振りどこかを見つめるばかりで何となくそれ以上聞いてはいけないような気がした。
「一人ぼっちなら、私の子にならない?」
君は顔を上げ、少し迷った素振りを見せて頷いた。
次の日には役所に行き手続きをし、2週間後にやっと正式に私たちは家族になった。

あれから十年後、君はすっかり大きくなって素敵な女性になったね。
スラリと伸びた手足に、しなやかな身体。艶やかな黒い毛並みに、優しいピンク色の肉球。
人より少し高い体温が心地よくて大好きだった。

今日は朝から雨が降っていた。
君は私の隣で丸くなり、にゃあと小さく鳴いてうとうとしている。
外でカタンと音がしてポストを見に行く。
いつの間にか雨は止んでいて雲の隙間から青空が覗いていた。
その光の中に大きな虹がかかっているのが見えた。
家に戻り私は君に話しかけた。
「ねぇ、虹が出てるよ。私たちが家族になった日のような虹がかかってるよ」
君からの返事はなかった。眠り続ける君は幸せそうな顔をしていて、この子を拾ってよかったと心から思った。頭をそっと撫でると君の愛おしい声が聞こえたような気がした。


2025.02.22
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2/22/2025, 10:48:21 AM