くろ

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『やりたいこと』

「ほら、もうそろそろ進路決めないと」
 担任からも、親からも、何度口にされてきたか分からない言葉。その言葉を聞く度に悲哀感に苛まれる。小さい頃は堂々と語っていた夢というものも、大人に近づくにつれ薄れていく。夢なんて叶えられるはずが無いと理解してしまったのが、そもそもの原因なんだろう。
「どうして貴方はいつもいつも…」
 いっそのこと、そう言ってくれた方が楽だったかも。親に左右される人生の方が、良かったのかもしれない。なんて言ってしまったら、それに苦痛を味わっている人に顔を合わせることさえ出来なくなる。
 誇れる特技も、好きだと言い張れる趣味も、私には兼ね備えていない。
「私医者になるために、医大行ってくる!」
 数少ない友達も、医者や教師やテレビ関係の仕事やら、高度な夢を追いかけている。それに見合う努力も才能もあって、私とは程遠くて。
『やりたい事は無理して見つけるものでは無い』
 勉強を後回しに読んでいた本の中に、そんな言葉を見つけた。
 ああ、なんだ、そんなことか。
 そう思った。
 今まで悩んできたことが全て無駄になったのに、何故か私の心は信じられないほどスッキリしている。
「あの、私─」

6/10/2024, 1:03:52 PM