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『たとえ間違いだったとしても』

古びたカセットテープには、手書きの震える文字で、今は亡き祖母の名が記されていた。

それは認知症を患った祖父が、最後に遺した録音だった。
再生ボタンを押すと、ノイズの向こうから若々しい、けれどどこか心細そうな男の声が流れてくる。

「もし、あのとき君を追いかけなかったら、僕たちはもっと幸せな別の誰かと出会えていたのかもしれない」

声の主である祖父は、一生を添い遂げた祖母の名前を呼んだ。
二人の生活は決して楽なものではなく、苦労の絶えない日々だったと聞いている。

「でも、たとえ間違いだったとしても。神様が別の正解を用意していたとしても。僕は何度でも、君と共に進む道を選びたい」

録音はそこで途切れている。

祖母が亡くなったとき、祖父はすでに彼女の顔も忘れていた。
けれど葬儀の最中に一度だけ、誰もいない空間に向かって「ごめん、待たせたね」と笑いかけた。

窓の外では、二人が植えた花水木がそよそよと風に吹かれて咲いている。

4/23/2026, 9:47:06 AM