紫水リオ

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お題「0からの」

それは、唐突の別れ話だった。
おしゃれなカフェで、彼女から突然切り出された別れ話。
「まだ好きなんだけど、結婚したり、あなたとの子を授かったり……将来一緒にいる未来が見えないの」
僕はそんなこと、一度も思わなかったのに。

まだ好きでいてくれているのに別れようだなんて、相当な覚悟があってのことだろう。
僕だって気持ちはずっと変わらない。
だから僕は、もう一度チャンスをくれないかと願った。

「君と、0からやり直したいんだ」
彼女は、必死に頭を下げて放った僕の言葉に、大層驚いたようだった。
「0から……ね。いいよ」
「ほ、ほんと!?」
僕は、彼女の答えが嬉しくて、思わず大きな声を出してしまった。
すると彼女は、マグカップを置いて席を立ち上がった。
「1からなら、このままやり直せたかもしれないのにね」

何を、言っているんだ──彼女は。

そして彼女は、僕を見下ろして微笑んだ。

「0から……だもんね」

さようなら。また、どこかで。

2/21/2023, 12:08:03 PM