NoName

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泣かないで





「いい名前じゃん、千草」
「やだよ。みんな馬鹿にするんだ。草の名前だって。草が千本も生えてる、荒れ地だって。じゃなかったら笑いものの場所だって」
「笑いもの?」
「“草生える”って」
「……あぁ……へえ…そんなこと考えちゃうのか…世代を感じるなあ…」
「やだよ、改名したい。なんでこんな名前にしたの」
「いや、名前つけたのは俺じゃなくてねーちゃんだから…」
「その場にいたんでしょ! おじさんニートなんだからっ」
「に…違うよニートじゃないよちゃんと働いてるよ」
「嘘つけ、いっつも家にいるじゃん!」
「エーちょっと草生えるとか言ってる世代が在宅ワーク知らないはずないでしょぉ…働いてるよぉ」
「ぅえええぁあああもぉやだあああ」
「エエエからのギャン泣きぃ? 泣きたいのは俺だよぉねーちゃん帰ってきて〜」
「うぅっ、っく、か、かわいい…めいっこがな、いてるんっだか、らーー! ちゃんとっ、なぐ、っさめて!」
「エーコワイよなんでその年でもう既にねーちゃんみたいなこと言ってんのよ、教育行き届きすぎでしょ」
「ほらぁあああ」
「あ~〜はいはい、はい」
「ハイは一回ぃぃ〜」
「うわめんどく…はいっ。だ!大丈夫だって。そんなん名前からかわれんのなんてちっさい頃だけ! 別に読めない名前でもないし周りがちょっとオコサマなだけ! ちーちゃんはかわいーし名前もかわいーし無敵!」
「うぅあああ」
「エー足りない? まだ足りない? んん、エートちーちゃんは絵も上手だし歌も上手だし、あっ、ほら、だから周り嫉妬しちゃってんじゃん? 名前くらいしか責めるとこないんじゃん? だって別にまじで馬鹿にされるような名前じゃねえし、あ、なんかちょっと腹立ってきたな。まじでなんでふつーにいい名前バカにされなきゃいけねーんだろ」
「う、ァあ…?」
「読み方も漢字もあるし古来からの美しい名前じゃん? ねーちゃんだってそんな適当につけた名前じゃねえし、 …はぁ腹立つなぁ、ちーちゃん主にそれ誰がゆってんの? 名前教えて? 今度迎えいったときに…」
「おっ、おち、おちついて! きっ、気にしてない! ほんとは別にそんな気にしてないから!」
「エーそお? ちゃんと傷ついたら言うんだよ? かわいい姪っ子泣かされて黙ってる俺じゃないからね?」
「うん大丈夫! ぜんっぜん! ほらもう泣いてないし!」
「んんーそう〜〜? まあちーちゃんがそう言うなら…あっ! そーだアイスあるんだったハーゲンダッツ。食べる?」
「アッアイス、ワーイうれしいなぁ〜〜」
「いえーい持ってくるねえ」

少し高級なアイスがテーブルに並ぶ。
今日も平和が守られた。


11/30/2024, 1:43:14 PM