maria

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「相合傘」



「ごめんね。帰るの遅くなるよね、
 森下くん。」

「いいって。陽が長くなったから楽勝。
 それに田中 これじゃ帰れないだろ。」

いつものように帰宅しようと
自転車置き場から少し動かしただけなのに
チェーンが外れてしまって
僕は困り果てていた。
森下くんのバスの時間が迫っている。
バス停までは僕は自転車を押しながら
二人で歩くのが日課だけど、
今日はさすがに迷惑をかけたくない。
一人で帰って貰いたかったけれど
情けないことに
僕の力ではチェーンをもとに戻すことが
できそうになかった。


森下くんは膝をついて、一心不乱に
僕の自転車に苦戦している。
夕方とはいえ夏の太陽はまだジリジリと
森下くんのうなじに照りつけ
顎を汗が伝う。

僕にできることといえば
森下くんがせめて影になるように
立ち位置を変えて
カバンを掲げて
日陰をつくることくらい。



「お、サンキュ。少し涼しいわ」

「……こちらこそ ありがとう」

それ以上無言のぼくら二人の影は



        まるで相合傘のよう


      なぜか眩しい夏の夕暮れ



          「相合傘」

6/19/2023, 12:13:13 PM