粉末

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「今日のお髭すごく似合っています。素敵。外国の俳優さんみたい。」
「は、はあ…。」
「そんなに怖がらないで。捕まえて食べようというわけじゃないの。」
「そう、ですか…。はい…どうぞ。」
この子との会話は実に心臓に悪い。
店に来て世間話をして花を一輪買って終わりのときもあれば、今日のように熱烈…な思いを伝えられることもある。真っ赤なバラの花束を添えて。
しかし俺の答えを求める素振りは無い。故に少し不気味さを感じる。
「…いつもありがとう。」
「こちらこそ。いつも素敵な姿を見せてくれてありがとうございます。…あれ、これって。」
「…おまけ、です。この前そこにいるうさぎを褒めてくれたので…日頃の感謝を込めたというか。」
「ありがとう。でも本当に何もいらないのに。」
「良いんだ。俺が、こうしたかったから。」
プレゼントなんてものは所詮自己満足。あとは受け取った側に委ねられる。
「この子、とてもかわいい。あなたそっくり。大切にします。どうもありがとう。」
にこ、と普段とは違う年相応の笑顔を置いて店を出て行った。
あの子の手に渡った小さなくまのマスコット。
あれは少々自信作だった。あの顔だけで見返りはいらない。
あの子の気持ちもそういうことなのだろうか。


何もいらない

4/21/2024, 5:21:24 AM