G14(3日に一度更新)

Open App

 俺の名前はシューゴ。
 セツナという女の守護霊をしている。
 とは言っても、好き好んでやってるわけじゃない。

 俺は生前悪事を働いていて、それが原因で閻魔に地獄行きの判決を下された。
 地獄が嫌だと懇願したところ、条件付きで天国行きを約束してくれた。

 その条件とは『セツナという女性の守護霊となり、彼女に天寿を全うさせること』。
 正直、楽勝だと思ったね。

 戦時中ならいざ知らず、今は平和な令和の時代。
 交通事故にさえ気をつければ、簡単に任務を遂行できる。
 そう高を括っていたのだが……

「よーし、不老不死の秘薬の完成だ!」
 予想しなかった方向で、天寿を全う出来ない可能性が出てきた。


 ――セツナは科学者だった。
 それも、『超』が5つ付くほどの天才だ。
 世間からはあまり評価されていないのが不思議なほど才能豊かで、凄まじい発明を次々としてきた。
 そんなセツナが『不老不死の薬が出来た』と言えば、疑いの余地はなかった……

 だからこそ問題だ。
 本当に不死になられると、俺が天国にいけなくなってしまう。
 条件はあくまで『天寿を全うする』、つまり『死ぬ』だからだ……

 まさかとあの閻魔、これを知ってて俺に押し付けたのか……?
 このままでは天国どころか、地獄にすら行けない……
 俺の幸せのために、思い直してもらう必要があった。

 けれど、どうしたらいいのだろう……
 捨ててしまうのが手っ取り早いが、俺は守護霊、露骨に邪魔することは出来ない。
 かといって説得も、セツナの偏屈な性格を考えると至難の業だ。
「八方塞がりだ」
 諦めの言葉と共にため息を吐くと、セツナは驚いたような顔でこちらを見た。

「なんだ、助手のシューゴじゃないか。
 いつの間に来たんだ」
「いましたよ。
 ずっと隣で見ていたじゃないですか」
 驚くべきことに、こいつは幽霊の俺が見える。
 何でも有名な霊媒師の家系に生まれたが、科学者の道を捨てきれず家を飛びだしたと言っていた。
 ……悪霊を祓える霊媒師と死なない科学者、どっちがマシか、悩むところである。
 それはともかく、初日から助手として扱き使われ、平穏な日常とは程遠い生活を送っている。

「もっと存在感だせ!
 幽霊みたいに影が薄いんだから、すぐ見失うんだよ」
 ちなみに、この博士は俺が幽霊だと信じていない。
 非科学的だからだそうだ。
 霊媒師の家系なのに……

「それでどうしたんだ、シューゴよ。
 いつになく暗いじゃないか?」
 セツナは、俺の顔を覗きこむ。
 妙なところで勘が鋭い奴だ。

「その不老不死の薬のことです。
 それ、使わずに破棄しませんか?」
「なぜだ?
 不老不死は人類の夢。
 それを『捨てろ』と言うからには、大層な理由があるのだろうな……」
 セツナが、鬼気迫る顔で俺を睨みつける。
 その迫力に思わずたじろいでしまうが、俺も天国行きが掛かってる。
 気を取り直して、セツナと向き直った。

「大層な理由と言うほどではありませんが、不老不死になっても不幸になるだけではありませんか?」
 俺はそれっぽい理由をでっちあげた。
 本当のことを言っても、幽霊とか死後の世界とか信じないセツナには効果が無いと思ったからだ。

「よく小説やドラマで不老不死の人が出てきますよね。
 ですが、不老不死のキャラは、決まって孤独でしょう。
 俺は、博士にそうなって欲しくないんです」
「……なるほど、私を慮っての進言は素直に受け止めておこう。
 だが、シューゴ、それはフィクションだ。
 現実と虚構を一緒にするんじゃない」
 正論を言われた。
 普段はマッドサイエンティストなのに、どうしてこういう所は常識人なんだ!
 俺が心の中で憤っていると、今度はセツナが大きなため息を吐いた。

「第一これは私が飲むやつじゃないぞ。」
「それはどういう……」
「シューゴ、お前が飲むんだ」
 意図が分からず、セツナを見返す。
 セツナは俺の目線を受け、ニヤリと笑った。

「不老不死とは言ったが、この薬の本質は生命力の超強化にある。
 生命力を漲らせれば、老い病も寄せ付けないだろう、という理屈さ」
「なるほど、どんな原理なのか疑問でしたが、そういうことだったのですね……」
 俺は一度頷き、それから首をかしげる。

「ですが、なおさら意味が分かりませんね。
 なぜそれが、俺が飲む理由になるんですか?」
「それはな、シューゴ。
 さっきも言ったが、お前生気がなさすぎるんだよ」
「へ?」
「いつも不健康な顔をして、心配していたんだ。
 これ飲んでもっと元気になれ」
 セツナの思いがけない言葉に、俺の思考が停止する。

「……博士は、俺の事をただの実験道具としか見てないと思ってました」
「実験道具だ。
 だが、私は道具の手入れは怠らない。
 この薬は試作品だから不老不死にはなれないだろうが、身体能力は向上するはずだぞ。
 そうなれば、もっと扱き使ってやるよ」

 辛らつな言葉を投げかけるセツナだが、その頬は耳まで赤い。
 実験への高揚か、それとも照れ隠しか。

 でも、どちらでも構わない。
 生前は俺のことなんて、誰も気にかけてくれはしなかった。
 理由はどうあれ、誰かに『心配された』という事実が、泣きそうなほど嬉しかった。

 もし死ぬ前にセツナと出逢っていたら、俺の人生は違ったのだろうか……
 俺は、死んでから――いや生まれて初めて受ける『愛』の暖かさに、心から感動していた。

「博士」
「なんだ?」
「お気遣い、ありがとうございます。
 その薬、謹んで飲ませていただきます」
「うむ。
 データを取るから、逐一報告するように。
 では薬を受け取れ」
「はい」
 背筋を正し、不老不死の薬を受け取ろうとした、まさにその時だった。

「「うわあ」」
 突然机の影から黒光りしたGが飛び出してきた。
 反射的だった。
 俺は手に持っていたもので、迷わずGを叩き潰す。
 G退治は俺の役目だからだ。
 だが……

「薬が!」
 俺は持っていたのは丸めた新聞紙などではなく、受け取ったばかりの不老不死の薬だった。
 フラスコが砕け、つぶれたGに薬液が降りかかる。
 その様子を見たセツナは、今まで聞いたことが無いくらい慌てた様子で叫んだ。

「シューゴ、すぐに薬品を拭きとるんだ!
 あれは人間用だから、Gにかかると何が起きるか――」
 だがセツナの言葉は最後まで続かなかった。
 突如猛烈な煙が噴き上げたからだ。

 慌てて庇うようにセツナの前に立つ。
 そして煙が晴れた場所に現れたのは……

「じょうじ……」
 巨大な人型のG――テ〇フォーマーだった……

「馬鹿な……」
 生命力溢れるGと、それを増大させる薬。
 2つの相乗作用により、新しい生命が誕生したのだ。
 セツナと一緒にいて、様々な経験をしたが、コイツはとびっきりの大事件だった。

「おい、シューゴ」
「何ですか、博士?
 今それどころじゃ……」
「あれ欲しい」

 思わず振り返る。
 俺の視線の先には、まるでお気に入りのオモチャを見つけた時の子供のように、らんらんと輝くセツナの笑顔があった。

「解剖して学会に発表する。
 本当に『じょうじ』って鳴いてる。
 体の組織はどうなっているんだろう。
 ゴキジェットは効くのかな?
 あの巨体で飛べるのか?
 ああ、もっと知りたい!」
 恋する乙女の様に、頬を染めるセツナ。
 俺は知っている。
 こうなった彼女は、もう誰にも止められない……

「と言う訳でシューゴ、捕まえて」
「テ〇フォーマーってメチャクチャ強いんですけど!?」
「大丈夫、シューゴなら負けないさ」
「何を根拠に!」
「こんな事もあろうかと、シューゴが寝ている間に改造したのさ!」
「初耳!」
「ほらこっち来るよ!
 迎撃して!」
「くそがあああ!」




 騒がしくも、満ち足りた日々。
 天国行きはまだまだ遠いけれど、この場所も悪くない。
 そんな事を思う、今日この頃であった。


 ちなみにテ〇フォーマーは、俺に腕から放出された内装型ゴキジェットによって退治された。
 ……俺、五体満足で天国に行けるかな?

3/18/2026, 1:27:33 PM