朝倉 ねり

Open App

『君と紡ぐ物語』

「やだ……また撮ってるの?」
もうよしてよ、と君が言うのを無視してビデオを取り続ける。
「あなた、ずっと撮ってばっかりであたしと一緒に映ってくれないのね?」
少し拗ねたような顔。
でも本気で怒っている訳ではなくて、そのポーズが可愛い。
「もう……。せっかく旅行に来たんだし、機械なんて置いて遊びに行きましょうよ。」
そうやって君が腕を引っ張るから、僕はようやく動画を撮る手を止める。
「そうだな。君との旅行は新婚旅行以来だから。」
「そうこなくっちゃ。あたし雑誌で沢山行きたいところを調べてきたのよ。ほら見て?付箋がびっしりでしょ」
全部あなたと行きたくて調べたのよ、なんて可愛いことを言うからまたビデオを回したくなる。
「またビデオに手が伸びてる。ダメよ、そんなにビデオと一緒にいたいならそっちと結婚したら良かったんだわ。」
妻が本格的に拗ねてしまった。
そんなところも可愛いと言ったら、もっと拗ねてしまうかな。
「違うよ。素敵な奥さんと一緒だからこそビデオに手が伸びるのさ。君がいなけりゃビデオが趣味になることも無かっただろうね。」
「……もう。」
宿屋から見える紅葉のように赤い頬の君。
そんな君を目に焼きつけて、一生の思い出の完成だ。

君が僕の人生に現れてから、僕はずっとビデオを回し続けている。
「まずは紅葉狩りが有名なお寺からね!」
はしゃぐ君を思い出のフィルムに閉じ込めて、君と思い出を紡いでいく。

11/30/2025, 11:45:26 AM