300字小説
飛べない翼の代わりに
俺がこのパラグライダースクールを始めた頃だ。
一人の青年がバイトとして働きに来てくれていた。
『お金はいりません。ただ一度で良いんで、青い空の下を飛びたいんです』
住所不定、身分証明なし。怪しいこと、この上無かったが、空を見上げる憧れの瞳に絆されて雇っていた。
バイトをしつつ、ライセンスを取り、ようやく彼が空を飛んだ日。
夢を叶えた、あの感極まった顔と笑顔は忘れられないよ。
その夜は終業後、ささやかな酒宴を開いてな、飛べたお祝いをした。
ん? その彼は今どこにって?
青年の彼はその夜以来、見ていない。
ただ、翌日、スクールを開けたとき、床に転がっていた、ニワトリのおもちゃなら、あれ以来、そこの棚に飾ってあるよ。
お題「飛べない翼」
11/11/2023, 12:21:28 PM