「未来がわかる本」
何かに導かれるように入っていった路地の奥。
小汚い古本屋の店先にあった本は表紙にタイトルが書かれていなかった。
「あら少年。その本が気になるの?」
昔再放送で観たアニメに出てきた悪の組織の女ボスのような、肌の露出多めの色っぽい女性が俺を見ている。
「あ、いや……」
「その本にはね、見たいと思った人の未来が書かれているのよ」
「……はぁ」
「信じてないわね」
いや、そんなこと信じられるわけないだろ。
「知りたくない?」
「…………」
「ほら、好きな子とうまくいくかなぁとか、進路のこととか、ね?」
「…………」
そりゃ、未来のことは気になるさ。
でも……
「いや、やっぱりいいです。俺には必要ないんで」
「あら、残念」
「……失礼します」
そっと本を戻し、女性に背を向けて歩き出す。
未来を見るのは、正直言って怖い。
自分が思い描くものと違っていたら……
あの子の隣に俺以外の男がいたら……
そんな未来は知りたくない。
たとえ結果がうまくいかなかったとしても、初めからそれを知りたくない。
それに、もしも自分の理想通りの未来を見たとしたら、俺はきっと調子に乗ってしまうだろうから。
だから、俺には必要ない。
「ほんと、残念だわ……」
女性の声に思わず振り返るが、あったはずの怪しげな店も女性の姿も、そこにはなかった。
────もしも未来を見れるなら
4/19/2024, 2:04:51 PM