浜辺 渚

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目を開けると、視界は暗闇で埋め尽くされていた。まるで、黒に純色があるかのようなドスの効いた黒色だった。
何秒か経ってくると、徐々に目の焦点が合わなくなり、形容しがたい図形のようなものが視界で蠢くようになってきた。
そして、そこは何の匂いもしなかった。匂いが消された時の特有のものすら無かった。きっと、1度消臭剤で匂いを取り除いて、そしてその匂いの無い匂いをまた違う消臭剤で消して、そしてそれを循環させ続けたのだろう。
一方で、風は不気味なほど強く吹いていた。顔の正面から後ろにかけて、舐められるような生暖かい風が吹いていた。そして、その風と体の衝突が唯一僕の存在の根拠になっていた。

視界に蠢く図形が収まってくると、微かに耳に何か聞こえ始めた。それは、時間が経つ度に強くなっていく。それはかなり慎重になる必要がある類の音だ。音声といっても、音と声はかなり違うところがあるのだ。僕の名前を呼んでいる。聞き覚えのある声で。

2/15/2025, 4:08:03 PM