静寂に包まれた部屋で読書をしていた。
鬱蒼とした森の中。
ログハウス的小屋の中でのひと時だった。
主は人間ではない見た目をしている。周囲の山村のいうところによれば、魔女扱いされている。
たしかに人間の寿命以上は生存しているものの、人間の寿命の延長線の範疇にある。
というか、昨今の人間たちは生き急げとしすぎている。
睡眠を削るとは、寿命を削るのと同意味だ。
と、主はみゅにゃみゅにゃと寝言を言っている。
誰がどう見ても昼寝をしている、と思うかもしれない。
本の位置は寝転んだ顔の上にあり、主の顔を隠している。金色の紡糸の英字の筆記体。タイトルがそれの表紙を上にして、伏せられた状態にあった。
難しい本を選んでしまった、というのが寝ている主の意向である。
しかし、本格的に本を読む前からハンモックにて寝転んでおり、予想通りハンモックの虜となっていた。
ハンモックに隷属して少なくとも数時間は経つ。
そもそも読書をやろうという意識の量は、あまりにも儚かった。
部屋の雰囲気に人工的物体は特にない。
木の根が張り巡らされた壁面には、主愛蔵のコレクションが飾ってあった。書物が最も多い。厚さ薄さ関係なく、物語は一級品である。
そこへ、さああ、と音がやってきた。
「……んあ?」
主へ音に呼ばれて目をこすり、伏せていた本を落とす。
何ページ読んだのか分からない状態になって、パタンと本は閉じる。
寝付きの悪い主は、やはり目覚めも悪く、低血圧低血糖ときている。数十秒間、上体を起こした状態で、音を立てた者を窺った。落ちた本はそのままにした。
一人、二人、三人……
見知ったものではなさそうだと思うと、壁にかけられたひと振りを手に取る。
三日月がそのままの形、そのままの色の武器。
小柄な主の身長に対し、二倍はあるだろうか。
「誰だい、俺の縄張りに入ったのは」
そう呟いて、スキルを行使した。
瞬間移動。するともう、射程圏内。
敵の背後を取るのは簡単だ。軽々と鎌を振るう。
先ほど読んでいた本の冒頭部分を頭のなかでそらんじた。
さあ、狩りの時間の始まり始まり……。
9/30/2024, 9:23:09 AM