枝切り蛙

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「上手くいかなくたっていいんだよ。大事なのはあくまで過程、努力をしたという事が大切なんだ。」

同じサッカー部のあいつは、休憩中や練習終わりになると口癖のようにそう嘯いた。
入部したばかり後輩達がそれをいかにも神妙そうな顔つきで聞いているのを見るたび、今すぐあいつの横っ面を引っぱたきたくなる衝動に駆られる。

ふざけるな。上手くいかなくたっていいなんて挫折した事がない人間が言う台詞だ。
結果が伴わなければ周囲はその過程にある努力を認めてくれない。
むしろ、頑張りが足りなかったと責め立てる。
失敗は何より恥ずべき悪徳だ。
あんたはろくな失敗をした事がないからそんな綺麗事を並べられるんだ。

何度もそう言おうとして、そのたびに言葉を喉の奥へと無理矢理押し込んだ。
己の不出来や浅はかさを嘆き続けた人間の気持ちを、聖人君子のようなあいつが理解できるはずがないから。




嫌になるほどよく晴れた夏の日の夕方、グラウンドの端の方で後輩達に指導する姿を見ながら、ふとそんな事を考えていた。

しばらくの間、濃い橙色に照らされたその光景をただぼうっと眺めていたが、ふいに、今が練習の最中だった事を思い出したかのようにシュート練習を再開する。

結局、自分は今日もあいつの綺麗事を聞き、心の中で反抗し、失敗を極度に恐れながら必死で努力をし続けるしかないのだ。 

軽蔑、羨望、妬み、嫌悪、それらを全て綯い交ぜにした感情を抱え、鬱憤を晴らすようにボールを蹴り上げる。

ボールは綺麗な直線を描きながらゴールの中へと入っていき、ゴールネットが鈍い音を立て、それを受け入れる。

土埃で薄汚れたボールが地面を力なく転がる姿を見て、
「今思い切り蹴り上げたものが、あいつの頭だったら良かったのに」
無意識のうちにそう思った。


  


  
  _______お題『上手くいかなくたっていい』

8/9/2022, 1:01:16 PM