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「いいか、よく見とけよ」
 父は真剣な顔つきでそう言った。次の瞬間、出来立てホヤホヤのたこ焼きに鰹節を掛けたのだ。
 鰹節はたこ焼きから放たれる大量の湯気に煽られて前後左右に揺れた。大きく揺れる様はまるで踊っているようにも見えた。
「これはな、父さんじゃないと出来ないからな」
 自慢げに笑った父の手が、その時だけは魔法の手に思えた。



「うーわ、変なこと思い出した」
 焼きうどんに、仕上げとして鰹節を今まさに掛けようとした瞬間だった。冷蔵庫にあるものをテキトーに切ってうどんと炒めただけの手抜き焼きうどん。玉ねぎともやしの比重が大きくなり、もはや野菜炒めと変わりない仕上がりだ。
 休日の今日、ダラダラ一日を過ごしているうちに外へ出かける気力がなくなったから家にあるものでご飯を済ませようと思い料理した。一人暮らしだとテキトーにご飯を作ったところで誰も咎めないから気楽でいい。
「あー、命日墓参り行けなかったからか。祟られたかな」
 キッチンの後ろに飾っているカレンダーを見やる。先週の水曜日に印がついていた。
「来週行くか」
 私は気を取り直して焼きうどんに鰹節を掛ける。焼きうどんの湯気に当てられて激しく揺れる鰹節をぼんやりと見つめた。今では私の手が魔法の手だ。



『踊るように』

9/8/2024, 4:02:45 AM