シオン

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 彼女は僕のことが好きじゃないかもしれない。
 ふと、そんなことを思った。
 敵対している、というものはもちろんのことで、それを要因として冷たい態度を取られるのも当たり前のことで。
 でもなぜだか最近本当に本心からそう思ってるんじゃないかと危惧する事態が増えてきた。
 僕の演奏は好きだけど、僕自身のことが嫌いだ、なんて言われたことがある。その時は僕が敵だからある程度敵対心を出すために言っているのか、などと可愛らしく思っていたけど。
 今よくよく考えてみれば全く違いそうで。
 そもそも僕の演奏というものは、迷い子を元の世界に返せる能力を持っている。つまり、その演奏が好き、というのは『迷い子を元の世界に返せる能力』を容認している羽目になる。それは彼女の立場上全くもっておかしい。
 つまり、彼女がわざわざそれを口に出したということはそれは紛れもない本心ということになる。
 ということは『僕自身のことが嫌い』というのは本心なわけで。
 と、そこまで考えた時、手の甲に雫が落ちた。
 視界が滲み出す。
 この世界に雨は降らない。僕は汗をかくほど疲れてないから、この雫の発生源は一つしかなくて。
 あるかどうかも分からない妄想みたいなものでこんなにも心が動かされるなんて思ってなかった僕は少し動揺した。

4/21/2024, 4:10:21 PM