25時

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10年ほど前に、町に洋菓子屋ができた。店の名前は、「ヘンゼルとグレーテル」店主は若い夫婦のように見えたが、兄妹だと言っていた。


その店で出てくるお菓子たちは隣国からも買いに来るくらい好評だ。
町に来た時に少しばかりお世話したからか、親のような気持ちで見守っていた。


ある朝、兄の方が嬉しそうな顔をして「妹が結婚する」と話した。その日は店を早めに閉めて酒を飲むことにした。親ではないが祝杯は上げても良いだろう。



夜が深まってきて、酒も進み、いつもの質問をした。今日なら答えてくれる気がしていた。
「君らはどこで、お菓子作りを習ったんだ?あんな美味しいのは生まれて初めて食べた」
「…先生はいません。独学です、兄妹2人で…考えて」
「どこの家の生まれなんだ?貴族か?」
「いえ?むしろ貧しかったですよ」



煮え切らない答え。いつもそうだ、何かをはぐらかされている。今日も収穫のないまま酒の席が終わる。



「僕たち2人だけの秘密なんです」



そう言って。

5/3/2024, 2:36:26 PM