一目惚れだった。
部下として配属された十七歳の女子相手に、三十路のおっさんが何をどぎまぎしてるのか。
色恋にかまけている場合ではないのに、つい目で追ってしまっていた。
「班長」
「……何だ」
「そろそろ休憩では?」
突然意中の女子に声を掛けられた。じろじろ見ていて気持ち悪い、と言われるかと思って変な汗が出たが。どうやら違ったようだ。
差し出された手には握り飯……皆に作ってくれたのか。
「あぁ、悪いな。そういえば腹が減った……皆喜ぶだろう」
「────から」
「ん?」
「班長にしか、作ってないから」
聞き返したら、女子は顔を赤くしてそう言った。
「お、おぉ……そうか」
「ちゃんと、食べて」
「おう……助かる」
「私はさっき休んだ時に食べたから。じゃあ」
ふわりと髪をなびかせて女子は行ってしまう。動いた時に見えた耳も赤かった。
淡々としていたが、あれは。急に顔に熱が集まり、口元が緩んでしまいそうなのを耐える。
「でかいな……」
俺の為だけに作られた、歪な形の握り飯は拳よりもずっと大きかった。
同僚が来て冷やかされる前に早く食ってしまおう。
何でもないフリは俺にはとても出来そうにないから。
【何でもないフリ】
12/11/2023, 12:33:12 PM