おさかな

Open App

別れ際に

「…え?なんて?」

思わず、聞き返す。今、なんて言ったのか。理解出来た、はずなのに。頭が、心が、混乱して。右から左へ、音が流れていく。

「だから、『いいよ』って。…言ったんだけど?」

いいよ。…いいよ。いいよ?

何が。どれが。
明日も遊びに行こうって言ったこと?
プリクラ撮りたいって言ったこと?
寝坊してごめんって謝ったこと?
お昼に自分の好きなチェーン店に入ったこと?

…好きだって、大好きだって、告白した、

その、答え?

「じゃ、また明日」
「うん…ん?」

困惑する自分を他所に、さっさと歩き出して行ってしまう。咄嗟に何も言えず、ただただ見送る時間が流れた。

「え、ちょ、待って、え…!」

なんの答えだったの?
いいよって、ねぇ、

期待しても、いい?

『───いいよ』

柔らかい声が、脳裏を反芻して思考を溶かす。

何も言えないまま、それなのに、ああ、行ってしまう。背中がどんどん小さくなっていく。でも。

「明日…聞けばいっか」

明日も、会える。きっと、いつだって会える。会いたいと口にすれば、会いたいという理由だけで、それを願うことが許される。

「…また、明日!」

少し先、道の向こう。ひらりと手を振り返す夕日に照らされたその横顔に、また今日も恋をした。

9/28/2023, 10:18:05 AM