『本気の恋』
戻らない恋の儚いことを知ったのは学生時代のことである。
散り切った桜の行方はここなのだと思った。彼女は、美麗であった。美麗さを振り撒かないある種の信念すらも美しく感じた。後に恋と知るその感情は私の心に介入するばかりに留まらず、瞬く間にほとんどすべてを占領した。
私を火照らすのは夏ばかりではなかった。彼女の心を震わすような言葉が欲しかった。彼女の笑みを絶やさないよう懸命に生きた。彼女の見えない部分がゆっくりと移ろい始めたのがこの頃であったのは、後に彼女から聞いたことだ。
短すぎる長期休暇が終わり、食欲や読書よりも優先したいことが私にはあった。彼女もきっとそうだろうと思っていた。そうして見上げた彼女の顔が、寂しかった。互いに見据えた近い未来に相手がいないであろうことを悟ったのは、紛れもない私たちであった。
凍てつくような吹雪が二人の距離を縮めていた。触れていたいと、君といたいと、未だ知らない何かに埋もれた心が呟いていた。彼女は言った。「二人して泣いてバイバイなんて、私たちが本気の恋をしてた一番の証拠だよね」
去り際の抱擁を、笑みを含んだ別れの挨拶を、今もよく憶えている。
9/13/2024, 4:34:27 AM