教会の澄んだ鐘の音を聞きながら、寝転がって曇天を眺めた。湿ったにおいがする。もう直ぐ雨が降るかもしれない。
賑やかな声が近づいては遠のいていく。生徒たちは鐘を合図にミサに行くのだ。
そして皆が祈りを捧げているうちに、僕は1学年上の三枝さんに会う。
ほら、今日も裏庭に三枝さんはやってきた。
三枝さんはセーラー服が汚れるのも構わず、きれいな花を探し当てると命の根を引っこ抜いた。生贄の儀式だ。
ささやかな花束を手作りのお墓に供えて拝む。僕もその横に座り小さく手を合わせた。
皆が生きている神様に祈っている最中、僕らは死んだ神様を拝む。
僕らは神様になにも求めない。救ってほしいとも思わない。
三枝さんはさらに神を哀れんでいる。
三枝さんによると、完璧であるはずの神は不完全な世界をうみだしたことに絶望し、自殺したらしい。
三枝さんが目を閉じて、じっとしているなか僕は鞄からテキストを出し、授業で当てられそうな問題の予習をした。
しばらくすると肌に水滴が落ちた。空からぱらぱらと降りかかり、やがて制服や教科書を濡らしていく。
「雨だ。降りそうだったもんなぁ。校舎に戻りましょ。」
「いや。」
三枝さんは拒絶する。空を見上げ、柔らかな頬に涙をながしていた。
雨が三枝さんの涙の跡を何度もなぞるのを僕は眺めた。
僕らはずぶ濡れになった。
避ける必要はない。
先生が言うように雨は祝福なのだから。
12/20/2024, 3:09:44 PM