「桜、満開やで!」
明るい声で起こされた。
起きる直前に何か夢を見ていた気がするが、明るい声で全てかき消された。
まだくっつきたがっている瞼を必死にこじ開けると明るい声に違わない爛漫の笑顔が目の前にあった。
「起きた?起きたな?花見行こうや」
今日が花見日和やって、明日からは雨らしいで、人混む前にサッとでええから行こうや、
覚醒しきらない俺を他所に、着ていく服やら目覚めのコーヒーやら色々と準備してくれながら急かしてくる男に笑いが洩れる。
ちょいちょい、と手で呼ぶと「なん?」と言いながら寄ってくる。
腕を掴んでぐいっと抱き寄せると男からはほんのり桜の香りがした。
「散歩行ってきたん?」
早朝目が覚めると1人で散歩をするのが日課な男に問うと、あんまり桜が綺麗やったから途中で戻ってきてん、と返された。
日課の散歩を中断するほどの桜、いや、それを俺に見せたくて戻ってきたのか。
たまらない愛おしさが込み上げてきた。
早く準備をして行こう。
スイッチが入ったようにきびきび準備をしだした俺に笑いながら、どこのルートがあんま人おらんかなぁ、とぼやく男。
10分で身支度を済ませ、今度は2人で散歩に出た。
男が慌てて起こしにきたのも頷けるほど、河川敷の桜並木は満開だった。優しく風が吹くと桜の香りが漂ってきて、思わず深呼吸した。
土手に咲く菜の花やたんぽぽの黄色に新芽の柔らかい緑、青い空、世界は美しいな、なんて柄にもなく思う。
「起こしてくれて、散歩誘ってくれて、ありがとう」
そう言うと、男はまた爛漫の笑顔を返してくれた。
【お題:春爛漫】
4/10/2024, 1:20:17 PM