湾をめぐる遊覧船に乗った。室内に入ることもできたけれど、甲板に立ってみた。
海風がすごい勢いで吹きつけてくる。髪の毛が、風に煽られて舞い上がる。手で抑えたりしても、全然間に合わない。周りの人もみんな、髪の毛が色々な方向に向いている。もう美しいとかそうでもないとか関係ない。どの人も滑稽だ。笑い声がもれる。楽しかった。細かいことはどうでも良くなってくる。
中にいる人たちが、少し憐れむような目でこちらを見ている。それでも誰も中に入ろうとしない。船は、海を切るように進んで、大きく波打ち続ける。頬が冷たくなってきた。不思議な高揚感がある。ずっとびょんびょんと髪をなびかせて、景色を楽しんだ。陸に上がると、髪の毛が潮風でギシギシだった。でも、妙にすっきりしていた。
「吹き抜ける風」
11/20/2025, 7:21:20 AM