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▶136.「手を繋いで」
135.「大好き」「どこ?」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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夜中から降り始めた雨が、まだ続いている翌朝。

「おう、今日はずいぶん冷えるな。話はまとまったか?」
「まだだ。ナナホシの威嚇行動を止められはしたが」
「プンプン」

ナナホシの活動への悪影響を減らすために別行動を取りたい人形と、
マスターと長期間離れることを拒否しているナナホシ。

対等な立場であると契約を結び手を繋いだメカ同士であるからこそ、お互い譲ることができずにいた。

「折衷案とかねぇのか?」
「私もナナホシも設定されたルールの中で活動している。そこから外れるには特定の条件が揃えることが必要だ」

「そういうもんなんだな」
「ああ、一晩世話になった」
「おう、礼なら要らねぇと言いてぇところだがな、✕‬‪✕‬‪✕‬。クロアの買い物に付き合ってくれるか?エスコートと荷物持ちをして欲しいんだ」
「荷物持ちは良いが、エスコートとは?」
「雨で道が悪いからな。簡単にいやぁ手を繋いで歩くってこった」

人形たちは風呂屋で体を洗い流しナナホシも清潔な布で拭き磨きをしてから、
シブの家へと戻ってきた。
「おーい、クロア。帰ったぞ」
「ツヤツヤ」
「シブは器用だな。ではナナホシ、しばらく隠れててくれ」

「おかえりなさい、シブ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬さんもいらっしゃい。ありがとう、お風呂屋さんに行ってくださったのね、まだ髪が濡れてるわ。こちらへどうぞ」

クロアに通されたのは台所で、かまどにはまだ火が残っていた。
それを見たシブがすぐに動いて薪を足し始める。

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬さん、こちらで髪を拭いてくださいな。良かったら座ってらしてね」
布を渡し椅子をすすめたクロアは、かまどに小鍋を乗せて中をかき混ぜ始めた。

「簡単なものですけれども、召し上がって」
「ありがとう。いただくよ」

人形は、言葉の柔らかさを少し調整し、
運ばれてきたスープの入った椀を手に取る。

「あー、うめー」
「うふふ、良かったわ。ねえ雨は止んでた?」
「まだ降ってたが、じき止むだろうな。買い物だろ?そろそろだと思ってな。‪✕‬‪✕‬✕‬に頼んだぞ」

「もう、心配症なんだから。ゆっくり歩けば大丈夫よ」
「シブはあなたと離れることが不安なのだろ」
「おまっ、そうじゃねぇよ」

人形の差し込んだ言葉にシブが焦って否定しようとするが、
それはもう肯定と同じだ。
聞いたクロアは、ニコリと笑って態度を変えた。

「シブが安心するというなら、そうしてあげるわ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬さん、お願いしてもいいかしら?」
「もちろんだ」
「ではお言葉に甘えてよろしくお願いしますわ。シブ、行ってくるわね」
「おう」


外に出ると、雨は止んでいた。
この町の道は水はけが良くできているが、歩いていれば所々ぬかるみもあるだろう。

人形なら手を繋がずとも反応できるが、できるだけ衝撃は少ない方がいい。
クロアと‪✕‬‪✕‬‪✕‬は軽く手を繋いで、喋りながら市場へと向かうのであった。

「いずれ店に人を雇いたいと思っていて。誰か良い人いるかしら」
「裁縫の腕なら、自分の服を仕立てたり毛皮も縫える人間を子どもの頃から知っている」
「まぁ!そんな方なら、店の方が放っておかないでしょうね」
クロアはコロコロと笑った。

「いつ頃から旅を?それとも、ご実家が近かったのかしら」
「その頃には旅をしていたよ。…私はこの国とは違う血が入っているらしくてな。若年期が長いんだ」

「そうだったの!若い時が長いだなんて、だから手も滑らかなのかしら?
こんなこと失礼かもしれないけど、羨ましく感じちゃうわ」
「滑らかさは気にしたことがないな。けど、怪我に強いのは確かだ」
「まぁー、シブが聞いたら驚くわねぇ」

「いらっしゃい。おやっ、今日は見慣れない人を連れてるねえ」
「ええ、旅の途中で寄ってくださったシブのお友達なの」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬と手を繋いで尽きない話を続けながら、クロアは次々買い物を済ませていく。

「クロアは意見が対立した時、どう対処するんだ?」

「お客さまとだったら、まず相手の話をたくさん聞くわね。どうかしたの?」
「初めて旅仲間ができたのだが、旅の途中で彼の体には合わない地域があって。先に行って道を探してくると言ったのだが拒否されてしまってな」

「あらあら、その方とは今?」
「ひとまず話を保留にして、彼は自分の拠点で休んでいる」
「そう、そうなのね。早く仲直りできるといいわね…友達とか家族、仲がいい人とけんかになると辛いもの」

「家族とも?そうなった時はどうしているんだ?」
「シブや子供たちとは…うふふ、ケンカした時は手を繋いで話すようにしているわね」
最後を少し照れくさそうに言ったクロアは、繋いでいない方の手を火照りを冷ますように顔に当てていた。

「手を?」
「ええ、手を繋ぐと温かいでしょう?家族だと、もっと心地いいの。それに小さな傷を見つけたり、子供も大きくなったなぁって感じたり。そうすると気持ちが穏やかになってくるの」

人形から見たクロアは、誇らしげにも見える表情をしていた。
それを自慢というよりも家族への愛情故だろうと人形は分析する。

それに、買い物の途中で人形の手の温度をクロアのそれに合わせると、
明らかにクロアの緊張が解れた。
手を繋いで伝わるものは、生理的な温度だけではないのだ。

「そういえば旅の途中に、手を繋いで冬越えの無事を祈る村があった」
「冬の厳しい村なのね。もっと聞かせて?」
「ああ。あれは…」

話と話は手を繋いで、家に戻るまで延々と続いた。

3/21/2025, 9:42:35 AM