冬の匂いは乾いた香木に似て、
喉の奥に粘り、へばり付いた。
腰掛けた板張りの椅子は固く冷たい。
主の像を見上げる。
偶像の哀れむ目を見つめる。
「祈るのはもうやめたの?」
乾いた声が後ろから聴こえる。
ヒールが石の床を叩く甲高い音に、
私は振り返らず、頭を垂れた。
「彼は救ってくれなかったわね」
感情のない、空っぽの声で言った。
「それにも意味があったって言うつもり?」
責めるわけではなく、ただの問い、
何も知らぬ子供が親に聞くように、
答えの無い問いの答えを求める様に、
私はより深く頭を垂れる。
それのみが答えであると。
それ以外には答えは持ち得ないから。
彼女は哀れんだ目で、
「手放した物だけが美しく思える物ね」
偶像と同じ目をしていた。
#手放した時間
11/23/2025, 6:16:20 PM