[明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。]
『バンドを解散します』『無期限で活動休止します』
それは何度も聞いてきた言葉だった。
その度に私の『世界』は崩壊しては再生を繰り返してきた。
好きなクリエイターを見つけて活動停止を宣言される度に世界から色が全て消えたかのような絶望に叩きつけられて、それまで私を形作ってた世界は呆気なく崩壊を迎えてしまう。どれだけ応援しても、どれだけお金を注ぎ込んでも、現地に行っても、どれだけ声を上げて叫んでも、何をしても、私達のようなファンは彼らの決定には逆らえない。
そんなこと意志を持つ人間を追い掛けた時から既に覚悟していたことだった。だから私達だってまた別の『世界』を求めて彷徨い歩き、新たな光を見つける。
新たな『世界』が自分の中に構築されようと、『崩壊した世界』の代わりは存在しない。『元いた世界』と『新たな世界』を同じくらい愛そうが、愛したアーティスト、クリエイターは自分の中で唯一無二の人として存在し続ける。
だからこそ、私は全てが愛おしい。
彼らの作り上げたものが。
彼らが残していくものが。
『世界』は日々、崩壊と再生を繰り返しているのだろう。
人はそれだけで一つの『世界』を構築している。
「だから私は解散しても活動を停止してもずっとファンで、好きでい続けるんだ」
そう空を仰ぎながら告げる君の目はひどく澄んでいた。
「私がファンでいる限り、忘れない限り、私の中に『彼らが作り上げた世界』が残り続ける。彼らの作り上げたものを、そこに込められた意志を語り継ぐことが出来る。それって永遠の時間を持つ『世界』にも等しいと思わないかい?」
白のカーディガンの裾を翻し、君はそう僕に問いかける。
「うん、そうだね。とても素敵な考え方だ」
「ありきたりな答えだね」
「違うよ、本当に素敵だと思ったんだ。君のようなファンがいてくれたら、クリエイター冥利に尽きるんじゃないかな」
そう言葉に出しながら、目頭は熱くなる。君の輝くような笑顔に涙は見せたくない。
世間のやめていったクリエイターの苦悩は分からない。やめて清々しているのか、後悔しているのか、様々な想いがあるだろう。
でも、それでも全力で作り上げて残したものを永遠にも等しい時間、愛し続けてくれる人が一人でもいるのなら、彼らは幸せだったと思う。
だから僕も願う。
僕の『世界』が終わってもどうか君のように僕が残した『世界』を一人でも愛してくれますように。
今『僕の世界』を愛しくれる人、これから『僕の世界』に触れてくれる誰かの為にも良い作品を作り上げよう。
そんな決意を新たに、僕は晴天を見上げる。
5/6/2023, 10:54:53 AM