名無しの夜

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白い翅に黒い斑点があるチョウがモンシロチョウ。

畑の間をふわりふわりと舞っている姿は遠目なら愛らしい。


近くに寄られるのは——ご勘弁。

どうにも苦手なのだのだから仕方ない。


昔。
子供だった息子は、農家たる義祖父母宅周辺で様々な虫を捕まえては飼育したり育成したり、していたようだ。

……その様子を目の当たりにせず、語りのみで済ませられたのは本当に幸い、義祖父母さまさまである。


苦手であっても、息子の話についていける程度にはと、うっすらと上辺知識を追ってはみたものの——


彼ら、ムシの世界は恐ろしい。


喰うか、喰われるか。

自然界の摂理、とはいえ。

私の尺度では恐ろしさが先立つ、どうしても。


モンシロチョウの前身はいわるゆるアオムシで、農家にとっては害虫らしい。

キャベツなんか食い荒らされちゃうのですって。

けれどそのアオムシだって、生き残ってチョウになれるのはごく僅か。

時期によっては、半数以上が何たらハチというのに寄生されて蛹にもなれず絶命してしまうのだとか……。


そのハチがなぜ、アオムシを見つけられるのかというと。

アオムシがキャベツを食べて。
その唾液と、齧られた野菜のお汁の化学反応によって、そのハチは近くにアオムシがいることがわかるのですって。

……これ。
キャベツなりの、自衛手段なのだとか。

ただでは食われないぞ! という感じなのかな……。


昨今はヴィーガン、という言葉もよく聞くようになったけれど。

そりゃあ、命を犠牲にせず、健康的に生きていける生物になれたらいいなとは思うけども。

動物を食べるのは野蛮!
野菜ならOK!

……は、乱暴な考え方なのではと思ったり。


野菜だって、食べられるのは嫌だから、そういう仕組みがあるのでしょう。

悲鳴だって、あげてるらしいし。

人間には、届きもしない周波数で。



あまり深く考えてしまうと生きていけないやね。

『いただきます』と手を合わせる文化は、改めて凄いなと思う。


残酷な命の連鎖の中で生きるしかないから。

その重みを意識しつつ感謝しつつ。

蝶々が舞う、ように。
のどかに軽やかに——過ごせたら、いいな。

5/11/2024, 7:17:40 AM