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お題 風に身をまかせ



何にもだれにも、自分の身を任せちゃいけないよ
自分の歩く道は自分で決めなくちゃ


なんつって。




外で庭仕事をしていたら彼がやって来て、
プランターで咲く赤とオレンジのガザニアのガズーを指差しながら、『昔のお前っぽい』と言い始める。

『なーに?可愛かったってこと?』と、にやにやしながら見上げると、
iQOSを吸いながら隣にしゃがんで、
『最初、派手な色の服着てなかった?』と言いながら少し横を向いて煙を吐く。

服の色かよ、と思いつつ、ガズーに液肥を加えていきながら、彼が言う最初とはいつのことだろう?と考える。

初めて会ったのは19の時で、そのとき
当時地元では流行ってたPINKY&DIANNEの赤いブラウスを着ていた。

入れてからまだそんなに日が経ってないという彼の右腕の刺青を見ながら、
『なんでこんな事するの?痛いのが好きなの?』と
無邪気を装って皮肉っぽく聞いたわたしに、
彼はムッとする様子もなく『腕は痛くない。けど、皮膚が薄い所は痛いよ。こことか、』そう言うと、
自分の方へわたしの腕を引き寄せ、腕の内側を手首から二の腕にむかって、下から上にゆっくり撫で始める。
驚いて固まるわたしの顔を覗き込みながら、彼が穏やかな口調で聞いてくる。
『興味ある?』
目が合った途端、しずかに、ジワジワと侵食されていく。
『興味、ある、、かも』
見た目よりずっと、おとなしくて、悪いやつだと思った。

その悪いやつと7年後に再会して、その3年後に結婚するとはあの頃夢にも思っていなかった。



彼が買ってきた白いカンパニュラとスターチスの花を花瓶に移して、リビングのテーブルに置く。
スターチスはドライフラワーにしようと考える。

風に身を任せたことはないけど
なんとなく、成り行きまかせできたことは否めない。
それでもこの生活を愛しているし、失いたくないと思えるくらいには、たぶん、愛されている。



5/15/2023, 9:30:18 AM