喪失感
「君はぼくが今目の前からいなくなっても、悲しくないの?」
そんなことを口にされても、私は涙すら浮かべられない。
いつも私の感情は、少しズレているから…。
恋人に別れ話をもちかけられても、泣いてすがることすら出来ない。
涙は決まって、一人きりの暗闇の中でしか流せない。
「ひとみ、お父さんはお前のことをずっと忘れないから。元気でお母さんとおばあちゃんと仲良くやるんだよ。」
お父さんの肩車が大好きだった。
でも…あの夜も私は泣き顔を父に見せることは出来なかった。
悲しいのに。淋しいのに。
電気の消えた真っ暗な部屋の片隅で膝を抱えて、一人泣いた。
私の前から、大切な人が消えてなくなるとき。
喪失感だけが残った。
感情が溢れてくれたらいいのに…。
とてつもない喪失感と引き換えに、自分を呪った10代と20代。
今なら、あの時の私に言える。それでも大丈夫だよ、何も悪くないよ、と。
30代になった私は、自分で自分を慰める術を手に入れた。
明けない夜がないように。
独りの暗闇から、静かに抜け出した35歳の春。
9/10/2023, 12:31:30 PM