刹那。

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きみはタランチュラ

だからわたしは踊らなくては。
その瞳に捕まらぬよう、糸にかからぬよう。
その美しく、麗しい毒から抜け出せるよう。
タランテラを踊る。
ただ、
ただ、踊る。

放課後の教室。
貴方が、バレエを踊るのを見た。
今まで見た男性ダンサーで1番美しいかと思うほど、
流れるようなスピンはわたしを魅了した。

狂ったように青春をバレエへ費やすわたしは、
彼へ対する
嫉妬と、嫌悪と、尊敬と、憧れと、羨ましさと、
様々な感情が入り混ざっていった。

一度も声を交えたことはない。
ただの通りすがりだった。彼がこの学校にいることさえ、バレエを踊ることさえ知らなかった。

ただ、立ち尽くすしかなかった。
蜘蛛糸に引っかかったかのように、動けなかった。

「さっきから何見てるの?」
「練習に集中できないんだけど」
柔らかく幼い顔ぶりとは裏腹に、言葉には毒があった。

「ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったの。
 ただ、あなたの動きがあまりにもきれいで」
拙い言葉しか出てこなかった。
あまりにも心臓が動き回るせいで。

私の荷物をチラッと彼が見る。
腑に落ちたような顔で私をもう一度見た。
「まぁいいけどさ、せめて端っこで見ててよね。」
そういうと、もう一度、最初から踊り始める。

指先が伸びる。
肘が波を作る。
肩が波紋を呼ぶ。
そして指先に戻り、波が押し寄せる。

まるで、潮の満ち引きのような、バレエを踊る彼は
私を疼かせる。

私も踊りたい。

「ねぇ、一緒に踊ってもいいかしら、この曲、つぎのコンクールの課題曲なの。」

「…まぁ、俺に着いてこれるならね。」

足並みが揃う。

この胸の鼓動は、高鳴りは、
期待なのか、
競争心なのか、
緊張なのか、
それとも

恋なのか。

とっくに、蜘蛛の糸は張り巡らされていて、
最初から逃げる方法など、私にはなかったのだ。


3/20/2026, 1:04:10 AM