堕暴螺

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 あちっ。彼女が声を零す。
 彼女は少し手を払って、弾けるように笑う。夜の底で線香花火に照らされた笑顔は、おかしいほどに眩しかった。
 バケツに花火をつけると、ジュクジュクと音を立てて火が消えていく。水面はいつのまにか炭で覆われていて、月も西の空へと沈み始めていた。

──ねえ。お祭り、楽しかったね。

 火が落る。同じ顔をしていた。

──これで終わりなわけじゃないのに、さ。あははっ。

 頬を撫る。濡れている気がした。

──あーあ、別れたくないなぁ。別れたくないのに……

 突然体が軽くなって、勢いよく彼女に抱きついた。浴衣がふわりと舞って、二人で地面に転がる。
 静寂が続いて、ゆっくりと口を開く。

──自由になろうよ、二人で。


──いいの?

 少し、強く抱きしめる。額から汗が滲んでいた。
 彼女の手を取って起き上がると、力強くバケツを蹴飛ばして、背伸びをする。
 私は涼しかった甚平を脱いで、暑苦しい浴衣を着る。

──真面目ちゃんはもうやめ。行こっ。

 その姿は、星々が見えなくなるほど美しかった。

7/7/2024, 6:25:56 PM