心地良い空調が効いている病室、今日も窓から外の世界を除く。
青く晴れた空に行き交いする様々な車、下校中の子供、急いで走り去るサラリーマン、グッズに身を包んだ大人、楽しそうに会話している学生達……。
生きている唯一の楽しみがこの時間だった。世界は広く、そして眩しい。この狭苦しい部屋から飛び出して、この足であの道を歩いてみたい。
「𓏸𓏸さん、入りますよー」
数回ノックの音がして、扉の開く音がした。音のした方を見て、ぺこりと会釈する。
「今日もありがとうねぇ」
「いえいえ、体調はどう?」
「良くも悪くも、何も変わらないさ」
「変わらないか……𓏸𓏸さん、一緒に頑張ろうね」
「あぁ」
「今日もちょっと歩こうか、手握るよ」
「よろしく頼む」
手に温もりを感じつつ、ゆっくり立ち上がる。足の感覚だけで地面を把握するのももう慣れてしまった。
「明後日は手術だね」
「もうそんな日数が経っていたか」
「先生に任せておけば大丈夫だからね」
「うむ。信頼している」
また、私に昔見えていた世界を見せてくれ。
『病室』
8/2/2024, 11:18:25 AM