下駄箱を出ようとして気づいた。
「え...」
ポツポツと雨が降っていた。音がしないぐらい少しなのだけれど、駅まで30分程度はあるから、この中傘をささずに行くのは些か躊躇われる。
今朝、いつも見るニュース番組の気象予報士は晴れだと自信満々に言っていたからそれを信じて傘を持ってこなかったのに。
「わっ!?」
一瞬視界が真っ黒になって何事かと一歩下がると、目の前に開いた傘を差し出されていた。私が持っているのよりなんだか大きく見える黒い傘。
「ん」
「え?いいよ、君が濡れちゃうよ」
「俺は男ですから濡れても良いんです。先輩どうぞ」「悪いよ」
「いいですから」
「でも────」
言い終わる前に傘は私の足元に置かれ、彼は薄い鞄を傘がわりに走って行ってしまった。置かれた傘を手に取るとやはり大きい。足元に置いていってしまうなんて。
「カンタかよ...」
某アニメの毬栗坊やを思い出してふふっと笑みが漏れる。さて、彼の行為を無駄にしないように、帰ろうと一歩踏み出して気づく。
「雨、止んでる...」
彼、服大丈夫かな、濡れてないかな。雨、止んで良かったな。
そう思いながら少し熱った顔を撫でた。傘返さなくちゃ。
今まで見ているだけだった彼に話しかける理由ができたことに胸を躍らせた。
#通り雨
9/27/2022, 10:26:53 AM