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ー ここではないどこか ー

僕らは まだ ただの 幼い子供だった。
自分のあまりにも小さい力で なにかを変えることなど出来ない ただの 子供だった。
僕らがそれに気づいたのは きっと 他の子たちよりずっと早かったと思う。
いや、早かったから良くなかったのだとも思う。
僕らは ずっと 何かを変えたいと思ってた。
何か ヒーローのようなものになりたかった訳では無い。
でも なにかを 漠然としたものだけど なにかを 変えたかったんだ。

僕らの出会いは 小学5年生。
同じクラスで 席替えをした時にたまたま隣の席になった。それだけだった。
きっと 好きなアニメの話とか 次の授業とか そんなどうでもいい話をしていたら 自然と仲良くなっていたんだと思う。
ある日が来るまでは 僕らはただの友人だった。
僕らの関係が大きく変わったのは 高校2年の時だ。
お互いに 体も大きくなり 趣味も 部活も 違くなり 前ほど同じ方向は向いていなかったと思う。
でも 小学生の頃からの 相棒 はやはり息が合うし 一緒にいて心地いい。
僕らは なぜか そんな日常は壊れないものだと信じていた。

夏休み真っ盛り。
僕は部屋で1人クーラーの下でくつろいでいた。
電話が鳴る。
僕が 高校生になってから親に買ってもらったスマホから相棒の名前が表示される。
通知は学生ならみんな使ってるチャットアプリからだ。
今から公園に来れない?
待ってる。
と。
今日は特に用事もないし と思い 「ちょっとまってて。」 と返し服を着替えた。
公園のブランコにあいつはいた。
いつの間にか ズボンではなくスカートを好んできるようになっていたあいつがいる。
あいつは僕の存在に気づいて手を振ってきた。
「急に呼び出して なんだよ?」
「来てくれてありがと。」
あいつは笑いながら答えたが 少し笑顔がぎこちない。
「あ、喉渇かない?自販機でなにか買おうか」
「最近は暑いからやになるよねー。」
「休日なのに家に籠ってないで外に出なさいってお母さんがさー。」
などと 到底呼び出すに値しないような雑談をする彼女に 僕は痺れを切らし聞いた。
「呼び出した要件は?まさか何もないとかではないよな。」
暑さのせいか 苛立ってしまい 語尾が少し強くなってしまった。
あ、えっと、などと狼狽える彼女は 覚悟を決めたようによし。といい こちらをしっかりと見る。
「わたし 転校するの」

「親の都合で 県外に ここは遠いからそっちの高校に行くんだって。今 ちょうど夏休みでしょう?だから 夏休み中に向こうに行くの。本当はもっと前から決まってたんだけど 自分でも こころの整理が 出来なくて。」
徐々に顔が下がる彼女を目の前に 僕は言葉が理解できなかった。
転校 親の都合 夏休み中 など 言われた言葉が頭の中で渦を巻き まとまってくれない。
か細い声でそっか。と呟いて それからは何も覚えていなかった。
気づいたら家に向かってて 隣にも後ろにも彼女はいなかった。
どんな話をしたのか どう帰る流れなったのかも分からず それどころか どれくらい時間が経ったのかさえわからなかった。
夜ご飯も喉を通らず 数口でご馳走様をし 母に心配された。
ずっと 隣にいたのに。
ずっと隣にいたから あいつがどこかに行ってしまうことが わからなかった。
あいつがいなくなるなんて 考えたこともなかった。
ベッドの中で あいつのことを考え いつの間にか眠ってしまった。

次の日 あいつから連絡が来た。
「残り少ないから 一緒にパーッと遊ぼう!」
あいつの名前を見ると なぜだか心が痛くなるから なぜだか涙が出そうになるから そんなメッセージはみ無かったことにして また 眠りについた。
僕は結局 あいつが引越しをする当日まで なにも返せないでいた。
あの日から あいつから メッセージは来ていない。
このままでいいのか と心の中でざわめく。
相棒なのに 一緒にずっと居たのに 。
好き なのに。

そう思った瞬間 僕は寝巻きなことも忘れ 家から飛び出した。
あいつの家のインターホンを押す。
ガチャり と扉が開き あいつが顔を出した。
「…どうしたの?突然。」
「今日 行くんだろ。だから 会いに来た」
「てっきり 避けられてたのかと思ってた。」
会いに来てくれて嬉しい。 と笑いながら答える彼女に 僕の心は暑く 痛くなる。
「お前が好き。」
彼女は目を見開き まるで鳩が豆鉄砲を食らったように口を開いていた。
「だから また 会いに行くよ。どこでも。お前に会いに。県外だろうと。どこでも。」
ははっと彼女は笑った。
まるで世界で1番幸せなように。
「私も好き。だから ずっと待ってる。」

あいつは引っ越した。
勉強があまり出来ない僕では 聞き馴染みのない名前の県へと 。
多分 ここから遠いところへと。
夏休みが終わり あいつが引っ越したことが朝のホームルームで告げられた。
僕は窓の外を見ながら ここではないどこか にいるあいつに会いにいくための予定を 頭の中で組み立てていた。

6/27/2023, 5:20:36 PM